相続登記などを司法書士に依頼すると、「戸籍や住民票は、司法書士が代わりに取ってくれる」と説明されることがあります。これは「職務上請求」と呼ばれる仕組みです。ただし、司法書士なら誰の戸籍でも自由に取れるわけではなく、法律で定められた場面と手順に限られます。この記事では、戸籍法と住民基本台帳法の規定、請求できる範囲と限界、広域交付制度との違い、本人通知制度について整理します。戸籍の種類や集め方そのものは、別の記事で扱っています。

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職務上請求の根拠|戸籍法と住民基本台帳法

戸籍謄本などの交付を請求できるのは、戸籍法第10条により、その戸籍に記載されている方、または配偶者、直系尊属、直系卑属です。それ以外の方は、第10条の2に定める場合に限って請求できます。このうち同条第3項は、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士について、受任している事件または事務に関する業務を遂行するために必要がある場合には、戸籍謄本等の交付を請求できると定めています。これが戸籍の職務上請求の根拠規定のひとつです。

住民票については、住民基本台帳法第12条の3が根拠になります。同条第2項は、司法書士などの「特定事務受任者」が、受任している事件または事務の依頼者が自己の権利行使や義務履行のために住民票の記載事項を確認する必要がある者などに当たることを理由に、住民票の写しが必要だと申し出たとき、市町村長がその申出を相当と認めれば交付することができると定めています。戸籍と住民票とでは条文が異なる点に注意が必要です。

請求できるのは「受任した業務に必要な範囲」だけ

条文のどちらも、請求できる場面は「受任している事件または事務」に必要な場合に限られています。つまり、依頼を受けていない案件について、司法書士が興味本位や念のためで戸籍や住民票を取得することは認められていません。相続の場面では、たとえば相続登記の申請を受任し、その申請に必要な戸籍を集めるといった場合が典型です。何を請求できるかは、受任した業務の内容によって決まります。

請求のときは、資格、業務の種類、依頼者の氏名または名称などを明らかにする必要があります。戸籍法第10条の2第3項は、これに加えて、依頼者について、権利行使や義務履行のために戸籍の記載事項を確認する必要があるといった理由を明らかにするよう定めています。住民票の場合も、申出の際に資格、業務の種類、依頼者の氏名などと、住民票の利用目的を示し、窓口では本人確認の書類の提示が求められます。住民票は市町村長が相当と認めて交付する仕組みである点も、条文に書かれています。

不正に取得した場合の扱い

偽りその他不正の手段によって戸籍謄本等の交付を受けた者は、戸籍法第135条により、30万円以下の罰金に処するとされています。この規定は、第10条の2第1項から第5項までの規定による交付も対象としています。住民票についても、住民基本台帳法第46条第2号が、偽りその他不正の手段により第12条の3に規定する住民票の写しなどの交付を受けた者を、30万円以下の罰金に処すると定めています。職務上請求は、範囲を超えた使い方が許されない制度です。

広域交付制度との違い

2024年3月1日に始まった広域交付制度は、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍証明書・除籍証明書を請求できるようにするものです。ただし法務省の案内では、請求できるのは本人、配偶者、直系尊属(父母・祖父母など)、直系卑属(子・孫など)で、その方が市区町村の戸籍担当窓口に来て請求する必要があり、「郵送や代理人による請求はできません」と明記されています。コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍や、一部事項証明書・個人事項証明書は対象外とも案内されています。

このため、広域交付は請求できる方ご自身が窓口に出向く制度であり、司法書士が代理人として広域交付を請求するものではありません。司法書士が相続で戸籍を集めるときは、戸籍法第10条の2にもとづく職務上請求として、戸籍を管理している各本籍地の市区町村に対して請求します。本籍が複数の市区町村にまたがる場合は、市区町村ごとの請求が必要になります。条文上は、郵便その他の方法で送付を求めることもできるとされています。ご自身で広域交付を使う場合の注意点は、戸籍の集め方の記事をご覧ください。

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依頼する方にとっての意味

職務上請求を使うと、相続人の方が各地の市区町村に請求書を出したり窓口に出向いたりする負担を減らせる場合があります。特に、被相続人の本籍が何度も移っていて、出生から死亡までの戸籍が複数の市区町村にまたがる場合は、収集の手間が大きくなりやすいため、任せるメリットが出やすい場面です。ただし、どの手続を任せるか、どの範囲の書類収集を含めるかは、ご依頼の際の委任の内容で決まります。ご依頼前に、任せる範囲を確認しておくと安心です。

また、職務上請求は「受任した業務に必要な範囲」で行うものですので、取得した戸籍や住民票は、その業務のために使われます。戸籍の取得は、相続人の範囲を確認するための手続の一部ですので、何のために必要な書類なのかを、ご依頼の際にご確認いただけます。

本人通知制度|交付されたことを知らせる仕組み

市区町村によっては、住民票の写しや戸籍証明書等を代理人や第三者に交付したときに、事前に登録した本人へ交付の事実を知らせる「本人通知制度」を設けています。たとえば守山市の案内では、第三者には、委任状を持った代理人や、弁護士・司法書士・行政書士など職務上請求が法律で認められている人が含まれると説明され、お知らせの内容には証明書の交付年月日、種別・通数、申請者の区分(代理人、職務上請求、第三者)などが示されています。

同じ案内では、この制度は交付の可否を事前に登録者へ確認したり、交付ができないようにしたりするものではないとされています。実施しているかどうか、登録の方法は市区町村によって異なります。被相続人や相続人の方に通知が届いたときは、その市区町村にお問い合わせいただくか、依頼している司法書士にご確認ください。

司法書士に任せられる範囲

司法書士は、相続登記など受任した業務に必要な範囲で、戸籍や住民票の取得を職務上請求として行うことができます。相続登記の申請の代理や、そのための書類収集の補助も、この枠のなかで行います。一方、職務上請求で「何でも取れる」わけではなく、受任していない案件や、業務に必要のない書類は請求できません。遺産分割に争いがある場合の代理交渉は弁護士、相続税の判断は税理士の業務領域です。

ご相談にあたって

当事務所の相続登記・相続手続きのご相談は無料で、着手金もいただいていません。ご依頼の際は、司法書士報酬のほかに登録免許税・戸籍等取得費などの実費が別途必要です。

遺産分割に争いがある場合の代理交渉・調停・訴訟は弁護士、相続税の申告・税務相談は税理士の業務領域です。当事務所は司法書士事務所として、相続登記・法定相続情報一覧図の取得・相続放棄の申述書など裁判所提出書類の作成等に対応し、必要に応じて適切な専門家をご案内します。

必要な手続き・書類・費用は個別の事情により異なります。ご自身のケースの見通しは無料相談でご確認ください。