相続人の一人と長年連絡が取れていない、住所も分からない——遺産の話し合いを始めようとしたときに、こうした状況に気づく方は少なくありません。遺産分割は共同相続人の間の協議で行うものですので、連絡のつかない相続人がいると、そのままでは話し合いを先に進めにくくなります。この記事では、まず所在を確かめる方法の考え方を確認したうえで、それでも所在が分からない場合に家庭裁判所へ申し立てる「不在者財産管理人の選任」について、裁判所の案内にもとづいて、誰が・どこへ・何を用意して申し立てるのかを整理します。あわせて、選任された後の遺産分割に家庭裁判所の許可が関わる点と、遺産分割をしないまま登記をする場合の考え方にも触れます。個別の事情によって進め方は変わりますので、全体像をつかむ手がかりとしてお読みください。
遺産分割の協議は共同相続人の間で行う
民法第907条第1項は、共同相続人は、遺言で禁じられた場合などを除き、いつでも、その協議で遺産の全部または一部の分割をすることができると定めています。協議は共同相続人の間で行うものですので、相続人の一人と連絡が取れないと、その方の意向を確認できないまま話し合いをまとめることは難しくなります。遺産分割協議書を作る場面でも、同じ事情が関わります。協議書の作り方や記載事項は、遺産分割協議書の記事で整理していますので、あわせてご覧ください。相続人が誰なのかを確認するための戸籍の集め方は、戸籍の集め方の記事で案内しています。
まず所在を確かめる
連絡がつかない相続人がいる場合でも、すぐに家庭裁判所の手続を考えるのではなく、まず住所や所在を調べて連絡を試みるのが出発点になります。住所に関する書類(住民票や戸籍の附票など)の種類と取得先は、住民票・戸籍の附票の記事で整理していますので、この記事では重ねて説明しません。どのような書類を使えば相続人の住所をたどれるかは、請求先の市区町村や状況によって異なることがありますので、取得を始める前に請求先の案内で確認してください。
所在が分からないときの不在者財産管理人
裁判所の案内によると、従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に、家庭裁判所は、申立てにより、不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため、財産管理人選任等の処分を行うことができます。根拠として、民法第25条第1項は、従来の住所又は居所を去った者が財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができると定めています。選任された不在者財産管理人は、不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって、遺産分割、不動産の売却等を行うことができるとされています。つまり、行方不明の相続人の代わりに、遺産分割の話し合いの当事者となる人を家庭裁判所に選んでもらう手続です。
申立人・申立先・費用
裁判所の案内では、申立人は利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる者、債権者など)または検察官とされています。申立先は、不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所です。申立てに必要な費用は、収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手です。郵便料は裁判所ごとに異なるため、申立先の裁判所の案内で確認する必要があります。なお、不在者の財産の内容から、不在者財産管理人が不在者の財産を管理するために必要な費用(不在者財産管理人に対する報酬を含む。)に不足が出る可能性がある場合には、申立人に相当額を予納金として納付していただくことがある、と案内されています。予納金の金額は、裁判所の案内ページには記載がありませんので、この記事では金額をお示しできません。申立先の家庭裁判所にご確認ください。
申立てに必要な書類
裁判所の案内では、申立てには申立書のほか、標準的な添付書類として次のものが挙げられています。不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)、不在者の戸籍附票、財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票、不在の事実を証する資料、不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類など)、そして利害関係人からの申立ての場合は利害関係を証する資料(戸籍謄本など)です。同じ書類は1通で足りること、申立前に入手が不可能な戸籍等がある場合は申立後に追加提出することでも差し支えないこと、審理のために必要な場合は追加書類の提出をお願いすることがあることも、あわせて案内されています。申立書の書式と記載例は、裁判所のウェブサイトで公開されています。管轄の家庭裁判所によって個別の案内がある場合もありますので、提出前に申立先の案内を確認してください。
選任後の遺産分割には家庭裁判所の許可が関わる
不在者財産管理人が選任されても、遺産分割の協議をその管理人だけの判断で自由に進められるわけではありません。民法第28条は、管理人は、第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができると定めています。裁判所の案内も、不在者財産管理人は家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって遺産分割、不動産の売却等を行うことができるとしています。そのため、遺産分割の内容は、行方不明の相続人の側の事情も含めて、家庭裁判所の許可に関わる形で検討されることになります。許可が得られるかどうか、どのような分け方なら許可されるかは、個別の事情と家庭裁判所の判断によりますので、この記事では見通しをお示しできません。
遺産分割をしないまま登記をする場合
遺産分割が整っていない段階でも、登記の面で考えられる選択肢があります。民法第898条は、相続人が数人あるときは相続財産はその共有に属するとし、相続分を各相続人の共有持分とする旨を定めています。不動産登記法第76条の2第2項は、民法第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてされた相続登記がされた後に遺産の分割があったときは、その分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、分割の日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければならないと定めています。また、同法第63条第2項は、相続による権利の移転の登記は登記権利者が単独で申請することができると定めています。法務局のウェブサイトにも、法定相続分によって不動産を相続した場合の相続登記の申請を検討されている方に向けた案内があります。ただし、法定相続分での登記は、行方不明の方を含む共有名義になります。実際の申請の可否や進め方は、管轄の法務局にご確認ください。
失踪の宣告という別の手続もあります
不在者の生死が長期間明らかでない場合には、不在者財産管理人の選任とは別に、失踪の宣告という家庭裁判所の手続があります。民法第30条第1項は、不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができると定めています。どちらの手続を選ぶべきか、申し立てた場合にどのような効果が生じるかは、事案によって異なります。この記事では失踪の宣告の効果や手続の詳細には踏み込みませんので、必要な場合は家庭裁判所の案内をご確認ください。
司法書士にご依頼いただける範囲
司法書士法第3条第1項第4号は、司法書士は、他人の依頼を受けて、裁判所に提出する書類を作成することを業とすると定めています。当事務所は司法書士事務所として、不在者財産管理人選任の申立書など裁判所に提出する書類の作成のご相談、戸籍や住民票など申立ての添付書類の収集のお手伝い、そして相続登記の申請の代理に対応しています。申立てに必要な書類が何か、どの書類をどこで取ればよいかを整理したい段階からご相談いただけます。なお、行方不明の方に関する家庭裁判所での手続の見通しについては、裁判所の判断によるため、当事務所からお約束することはできません。
ご相談にあたって
当事務所の相続登記・相続手続きのご相談は無料で、着手金もいただいていません。ご依頼の際は、司法書士報酬のほかに登録免許税・戸籍等取得費などの実費が別途必要です。
遺産分割に争いがある場合の代理交渉・調停・訴訟は弁護士、相続税の申告・税務相談は税理士の業務領域です。当事務所は司法書士事務所として、相続登記・法定相続情報一覧図の取得・相続放棄の申述書など裁判所提出書類の作成等に対応し、必要に応じて適切な専門家をご案内します。
必要な手続き・書類・費用は個別の事情により異なります。ご自身のケースの見通しは無料相談でご確認ください。